高地明(株式会社ブルース・インターアクションズ 元代表取締役社長)
Pヴァインが昨年(2024)に、自社レコード・プレス工場を立ち上げるという、とんでもないことをやってしまった。今から6、70年前ならばプレス工場を裏庭或いは近くに立てて、表をレーベル事務所、或いは兼業で販売店を営む、というアメリカのインディペンデント・レーベルは確かにあった。というか、それがインディの基本形の一つだった。B.B.キングのいたモダン/ケント・レコードもそうだった。
そこでレコードが一枚一枚プレスされていく素晴らしく心に地良い騒音。先日、VINYL GOES AROUND PRESSINGと名付けられたその工場に実際に立ち寄ったのだが、いま改めて頭の中で蘇るそれは、まるで昔々に蒸気機関車が線路を踏ん張って、気張って突き進む音そのものではないか。言い直そう、それは1800年代後半からブルース誕生の地となるミシシッピ州デルタ地帯で綿花を運ぶピーヴァイン(Peavine)と呼ばれた鉄道路線、そこを一途に走り抜ける驀進音なのだ。それは、その名をアメリカ黒人音楽がより多彩になっていく時代を経ての1975年になって拝受したPヴァインの躍動音そのもの、と言っていい。ぼくは、確かにそれを体感した。
20年弱前に、日暮泰文という創設者であり私の兄貴分を手伝う形でぼくも一緒に始めたPヴァインを共に去った時、インディペンデントという意味が何たるかを知る当時営業職にいた男を信じて、そのレーベルの行方を託した覚えがある。それが現社主であり、最高責任者である水谷聡男である。
そのPヴァインの原点となる、自分たち独自の音楽文化へ興味の拡がりをそのまま反映したレーベルとしての確実な歩みと強い意欲、それがずっと続いていることが、いや更にその規模が大きくなっていることが、ぼくには何よりもうれしい。
よくぞやってくれた、その50周年を心から祝いたい。そして、たまには派手な警笛もぶっ放して、これからも突き進んで欲しい。おめでとう! いま最高の気分だ。
